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第10章—ドイツ宗教改革の進展 GCJap 213

ルターの失踪と人心の動揺 GCJap 213

ルターの不可解な失踪は、ドイツ全国を非常に驚かせた。どこへ行っても、人々は、彼のことをたずねていた。途方もないうわさが広がり、彼が殺されたと思い込む者も多かった。明らかに彼の友人であるとわかる者だけでなく、公然と宗教改革に加わってはいなかった幾千の者までが、深い悲しみに沈んだ。多くの者は結束して、彼の死の復讐を厳粛に誓った。 GCJap 213.1

法王側の指導者たちは、彼らに対する反感の高まりを見て恐れた。初めはルターが死んだものと思って喜んだが、すぐに彼らは、人々の怒りから隠れたいと願った。ルターの敵は、彼が彼らの中にいてどんなに大胆に行動したにしても、いなくなった今ほどには困らせられなかったのである。激しく怒って、勇敢な改革者を殺そうとした者も、今は、彼が自由のきかない捕虜になっていることに恐怖を抱いた。「われわれを救う唯一の方法は、たいまつを点じ、全世界をまわってルターをたずね出して、彼を呼び求めている国民に返すことだ」と言う者もあった。皇帝の布告も、その威力を失ったかに見えた。法王の使節たちは、皇帝の布告がルターの運命ほどには人々の注意を引かないのを見て、非常に怒った。 GCJap 213.2

ルターは捕らわれてはいるが安全であるという知らせに、人々の不安は静まったが、それとともに、彼を支持する熱意はさらに高まった。彼の著書は、これまでにない非常な熱心さで読まれた。恐ろしい強敵に立ち向かって、神の言葉を擁護した英雄の事業に、ますます多くの者が参加した。宗教改革は、着実に勢力を増しつつあった。ルターのまいた種が、至るところで芽を出した。彼がいたのではできなかったような働きが、彼がいないことによって成し遂げられた。偉大な指導者が取り去られたために、他の働き人たちが新たな責任を感じた。彼らは、新たな信仰と熱心に燃えて全力をあげて前進し、立派に始められた働きが妨げられないようにしたのである。 GCJap 214.1

しかし、サタンも、手をこまねいてはいなかった。彼は、今、他のあらゆる改革運動において試みてきたことをしたのである。すなわち、真の改革事業の代わりに偽物をつかませて人々を欺き、滅ぼそうとした。キリスト教会の第一世紀に偽キリストたちがあらわれたように、一六世紀にも偽預言者たちがあらわれた。 GCJap 214.2

宗教界の騒ぎに強く刺激された二、三の者が、自分たちは天からの特別の啓示を受けたと思い込んだ。そして、自分たちは、ルターが細々と始めた改革を完成させるよう神の任命を受けたと主張した。しかし、実際には、彼らはルターが成し遂げた働きそのものをくつがえしていた。彼らは、改革の根底そのものである大原則、すなわち、神の言葉は信仰と行為の完全な規準であるということを拒んだ。そして、その誤ることのない指導に代えて、彼ら自身の感情と印象という変わりやすい不確実な標準を用いた。誤りと虚偽の偉大な検出器である神の言葉を廃棄するこの行為によって、サタンが思うままに人間の心を支配する道が開かれた。 GCJap 214.3