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二派の対立とカール五世 GCJap 189

ここで、議会の議員の中で、二つの相反する意見が主張された。法王使節と法王側の代表者たちは、改革者の通行券を無視することを再び主張した。「一世紀前のヨハン・フスのように、彼の灰はライン河に投げられるべきである」と彼らは言った。しかしドイツの諸侯は、彼ら自身法王教徒でルターの宿敵ではあったが、そのような一般の信頼にそむく行為に反対し、それは国家の名誉をはずかしめる汚点であるとして異議 GCJap 189.3

を唱えた。彼らは、フスの死後に起きた不幸な出来事を指して、これと同様の恐ろしい災いを、ドイツおよび年若い皇帝の上に降したくないと言明した。 GCJap 190.1

カール自身もその卑劣な提案に答えて言った。「たとえ全世界から名誉と信義が追放されても、それらは、諸侯の心の中に隠れ家を見いださなければならない」。法王側の、ルターを最も憎んでいる敵は、ジギスムントがフスを扱ったように、皇帝がルターを処理するよう、さらに要求した。それは、彼を教会の手中に一任することであった。しかし、フスが公衆の面前で自分の鎖を指し、皇帝の不実を指摘したことを思い起こして、カール五世は、「わたしはジギスムントのように赤面したくない」と言った。 GCJap 190.2

しかし、カールは、ルターが示した真理を故意に拒絶した。「わたしは先祖たちの模範に従うことを堅く決心した」と王は書いた。彼は、慣習の道からは一歩も外に出ない決心をし、真理と義の道を歩こうとさえしなかった。彼は、先祖たちが支持したゆえに、残酷で腐敗しているにもかかわらず法王制を支持するのであった。こうして彼は、先祖たちが受けた光よりも進んだ光を受けることを拒み、彼らが行わなかった義務は、何一つすまいとしたのである。 GCJap 190.3

今日でも、先祖の習慣や伝統を固守する人が多い。主が彼らに新しい光をお与えになると、彼らは、それが先祖に与えられておらず、彼らがそれを受け入れていなかったという理由で受けることを拒む。われわれは、先祖たちの時代に置かれてはいない。したがってわれわれの義務と責任は、彼らと同じではない。自分で真理の言葉を探究せずに、先祖の模範によってわれわれの義務を決定しようとすることは、神に喜ばれない。われわれの責任は、先祖たちの責任よりはいっそう重いのである。 GCJap 190.4

われわれは、彼らが受けた光、そして、われわれに遺産として伝えられたものに対して責任がある。そして、われわれは、今神のみ言葉からわれわれの上に輝いている追加的な光に対してもまた責任がある。 GCJap 191.1

キリストは、不信仰なユダヤ人について言われた。「もしわたしがきて彼らに語らなかったならば、彼らは罪を犯さないですんだであろう。しかし今となっては、彼らには、その罪について言いのがれる道がない」(ヨハネ15章22節)。同じ神の力が、ルターを通して、ドイツの皇帝と諸侯に語ったのである。そして、光が神のみ言葉から輝いた時に、神の霊が、議会内の多くの者に最後の訴えをした。幾世紀の昔、ピラトが誇りと人々の歓心を買うために世界の贖い主に対して心を閉じたように、また戦慄したペリクスが「今日はこれで帰るがよい。また、よい機会を得たら、呼び出すことにする」と言ったように、また、高慢なアグリッパが「おまえは少し説いただけで、わたしをクリスチャンにしようとしている」と言いながら、天からのメッセージを退けたように、そのようにカール五世は、この世的な誇りと政策に屈して、真理の光を拒否することになったのである(使徒行伝24章25節、26章28節)。 GCJap 191.2

広範な支援とルターの忠誠 GCJap 191.3

ルターに危害を加えようとする陰謀のうわさが広く伝わり、全市は大騒ぎになった。改革者ルターは、多くの友人を持っていた。彼らは、ローマの腐敗をあばくすべての者に対するローマの不実な残虐行為を知っていたので、彼を犠牲にしてはならないと決意した。数百の貴族が彼を保護することを契約した。ローマの支配権に屈したことを示す皇帝の布告に対して、公然と反対する者も少なくなかった。家々の門や公の場所にポスターがはられ、ルターを非難する者もあれば、支援する者もあった。その一つには次のような、賢者の意義深い言葉だけが書かれていた。「あなたの王はわらべであって、……あなたはわざわいだ」(伝道の書10章16節)。 GCJap 191.4

ルターの人気は、ドイツ全土において非常なものであったので、もし彼に対する不正が行われるならば、帝国の平和は破られ、王位さえ安定があやぶまれることを、皇帝も議会も共に痛感したのである。 GCJap 192.1

ザクセンのフリードリヒは、改革者に対する本心を注意深く表に出さず、沈黙を守っていた。しかし同時に、ルターを厳重に保護し、彼のすべての行動と彼の敵のあらゆる動きを見守っていた。しかし、ルターに対する同情を隠そうとしない者も多かった。ルターは、諸侯、伯爵、男爵、その他、一般と聖職両方面の高貴な人々の訪問を受けた。「ルター博士の小さい部屋は、訪問してきた人々をみな入れることができなかった」とシュパラティンは書いている。人々は彼を、まるで超人であるかのように眺めた。彼の教義を信じなかった人々でさえ、自分の良心にそむくよりは死をさえいとわぬ彼の高潔さに対して、賛嘆せずにはおれなかった。 GCJap 192.2

ローマとの妥協にルターを同意させようとする懸命の努力がなされた。貴族や諸侯たちは、もし彼が自説に固執して、教会と議会の決定にそむくならば、彼はすぐに帝国外に追放され、なんの防御もなくなると説明した。この訴えに対して、ルターは次のように答えた。「キリストの福音を伝えると必ず攻撃を受けます。……しかしそうだからといって恐怖や不安のために主から離れ、唯一の真理である神の言葉から離れてよいでしょうか。いいえ、わたしはむしろ、わたしの体、わたしの血、わたしの生命をささげたいのです」 GCJap 192.3

彼は、ふたたび、皇帝の意見に従うように勧められた。そうすれば彼は、何も恐れるものがなくなる。彼は、それに答えて言った。「わたしは、皇帝、諸侯、また、どんなに身分の低いキリスト者であっても、わたしの著書を吟味し、判断することに心から同意する。この場合、唯一の条件は、彼らが神の言葉を標準にす GCJap 192.4

ることである。人間は服従することのほかは何もできない。わたしの良心にそむくことを提案しないでほしい。わたしの良心は聖書に縛られつながれている」 GCJap 193.1

また、他の訴えに対して彼は、「わたしは、自分の通行券を放棄することに同意する。わたしは、自分の身と生命とを皇帝の手に渡す。しかし、神の言葉は、決して渡さない」と言った。彼は、自分は喜んで議会の決定に服すと言ったが、その場合の唯一の条件は、議会が聖書に基づいて決定するということであった。「神の言葉と信仰に関して、法王には百万の会議の支持があるにせよ、各キリスト者は法王に劣らず立派な裁判官である」とつけ加えた。敵も味方も共に、これ以上妥協を勧めても無駄なことを知った。 GCJap 193.2

もしもルターが一つの点でも妥協したならば、サタンとその軍勢は勝利をおさめたことであろう。しかし、彼が揺るがず堅く立ったことが、教会解放の道を開き、新しい、そしてよりよい時代の開始となった。信仰問題について自ら思考し行動したこの一人物の影響は、教会と世界に及び、その時代だけにとどまらず、その後の各時代にまで及んだ。彼の確固不動の忠誠は、時の終わりに至るまで、同様の経験をたどるすべての者を励ますのである。神の力と威光とが、人間の会議と、サタンの大きな力とを、超越したのであった。 GCJap 193.3