第40章 ネブカデネザル王の夢
本章はダニエル2章に基づくPK 570.4
ダニエルとその仲間たちがバビロンの王に仕え始めてしばらく後に、イスラエルの神の力と真実性とを偶像教国にあらわす事件が起こった。ネブカデネザルは驚くべき夢を見て「そのために心に思い悩んで眠ることができなかった」(ダニエル2:1)。王の心は非常に強い印象を受けたにもかかわらず目覚めた時に、その内容の細かい点を思い出すことができなかった。PK 570.5
ネブカデネザルは思い悩んで、彼の賢者たち、すなわち「博士、法術士、魔術士」たちを召しよせて、彼らの助けを求めた。「わたしは夢を見たが、その夢を知ろうと心に思い悩んでいる」と彼は言った。彼はこのように彼の悩みを訴えて、心の安らぎを与えることを彼に告げるように、彼らに求めたのである(同2:2、3)。PK 570.6
これに対して賢者たちは答えた。「王よ、とこしえに生きながらえられますように。どうぞしもべらにその夢をお話しください。わたしたちはその解き明かしを申しあげましょう」(同2:4)。PK 570.7
干は、彼らが人間の秘密をあらわすことができるともったいぶって主張しているにもかかわらず、快く王に助けを与えようとしないので、彼らの回避的答えに不満と疑念を抱いて、夢の解き明かしだけでなくて、夢そのものをも示すように賢者たちに命じ、それができる者には富と栄誉とを約束し、できない者に死の宣告を下すと威嚇したのである。王は言った。「わたしの言うことは必ず行う。あなたがたがもしその夢と、その解き明かしを、わたしに示さないならば、あなたがたの身は切り裂かれ、あなたがたの家は滅ぼされる。しかし、その夢とその解き明かしとを示すならば、贈り物と報酬と大いなる栄誉とを、わたしから受けるだろう」(同2:5、6)。PK 570.8
それでもなお賢者たちは答えた、「王よ、しもべらにその夢をお話しください。そうすればわたしたちはその解き明かしを示しましょう」(同2:7)。PK 570.9
ここでネブカデネザルは、彼が信頼していた者たちの明白な裏切行為に完全に目覚めて、怒って言った。「あなたがたはわたしが言ったことは、必ず行うこと を承知しているので、時を延ばそうとしているのを、わたしは確かに知っている。もしその夢をわたしに示さないならば、あなたがたの受ける刑罰はただ1つあるのみだ。あなたがたは一致して、偽りと、欺きの言葉をわたしの前に述べて、時の変るのを待とうとしているのだ。まずその夢をわたしに示しなさい。そうすれば、わたしはあなたがたがその解き明かしをも、示しうることを知るだろう」(同2:8、9)。PK 570.10
博士たちは、彼らが失敗したならば、どんなことになるかという恐れに満たされて、王の要求が不合理で、彼の試験はどんな人間にも求められたことのない無理なものであることを示そうと努めた。彼らは王に抗議して言った。「世の中には王のその要求に応じうる者はひとりもありません。どんな大いなる力ある王でも、このような事を、博士、法術士、カルデヤびとに尋ねた者はありませんでした。王の尋ねられる事はむずかしい事であって、肉なる者と共におられない神々を除いては、王の前にこれを示しうる者はないでしょう」(ダニエル2:10、11)。PK 571.1
「これによって王は怒り、かつ大いに憤り、バビロンの知者をすべて滅ぼせと命じた」(同2:12)。PK 571.2
王命の指示を実行しようとしていた役人たちが求めた者のなかに、ダニエルとその同僚がいた。王の命令に従って、彼らもまた死ななければならないことを告げられた時に、ダニエルは、「思慮と知恵とをもって」、王の高官アリオクに「どうして王はそんなにきびしい命令を出されたのですか」と尋ねた。アリオクは、王が驚くべき夢を見て、思い悩んだことを彼に語り、これまで王が最大限の信頼をおいていた者たちから、なんの助けも得られなかったことを告げた。これを聞いたダニエルは、命がけで王の前に出て、夢とその解き明かしを示していただくために神に祈り求める時が与えられるように願った(同2:14、15)。PK 571.3
王はこの願いを聞き入れた。「それからダニエルは家に帰り、同僚のハナニヤ、ミシャエルおよびアザリヤにこの事を告げ知らせ」た(同2:17)。彼らは一緒に、光と知識の源であられる神の知恵を求めた。彼らは神が彼らをその場所に置かれたこと、そして自分たちは神の働きをなし、義務の命じることを果たしているという自覚のもとに強い信仰を持っていた。彼らは、悩みや危険に遭遇した時には、常に神の指導と保護を仰いだ。そして神は、彼らのいと近き助けであられたのである。ここで彼らは悔い改めて、地の審判者であられる神に対する服従を新たにし、この特別な難局において彼らを救って下さるように神に嘆願した。そして彼らの訴えはむだではなかった。彼らが敬った神が、今や彼らに栄誉をお与えになったのである。主の霊が彼らの上に宿り、「夜の幻のうちに」王の夢とその解き明かしとがダニエルに示されたのである。PK 571.4
ダニエルがまず第一にしたことは、彼に与えられた啓示に対して神に感謝することであった。彼は叫んで言った。「神のみ名は永遠より永遠に至るまでほむべきかな、知恵と権能とは神のものである。神は時と季節とを変じ、王を廃し、王を立て、知者に知恵を与え、賢者に知識を授けられる。神は深妙、秘密の事をあらわし、暗黒にあるものを知り、光をご自身のうちに宿す。わが先祖たちの神よ、あなたはわたしに知恵と力とを賜い、今われわれがあなたに請い求めたところのものをわたしに示し、王の求めたことをわれわれに示されたので、わたしはあなたに感謝し、あなたをさんびします」(同2:20~23)。PK 571.5
ダニエルは直ちに王が賢者たちを殺すように命じたアリオクのところに行って言った。「バビロンの知者たちを滅ぼしてはなりません。わたしを王の前に連れて行ってください。わたしはその解き明かしを王に示します」。アリオクは急いでダニエルを王の前に連れて行って、「ユダから捕らえ移した者の中に、その解き明かしを王にお知らせすることのできる、ひとりの人を見つけました」と言った(同2:24、25)。PK 571.6
世界最強の帝国の王の前に、沈着冷静に立つヘブルの捕虜を見よ。彼は口を開くとまず自分に栄誉を帰すのではなくて、神をすべての知恵の源として高めたのである。「あなたはわたしが見た夢と、その解き明かしとをわたしに知らせることができるのか」という王の切なる問いに彼は答えた。PK 571.7
「王が求められる秘密は、知者、法術士、博士、占い師など、これを王に示すことはできません。しかし秘密をあらわすひとりの神が天におられます。彼は後の日に起るべき事を、ネブカデネザル王に知らされたのです。PK 572.1
あなたの夢と、あなたが床にあって見た脳中の幻はこれです。王よ、あなたが床におられたとき、この後どんな事があろうかと、思いまわされたが、秘密をあらわされるかたが、将来どんな事が起るかを、あなたに知らされたのです。この秘密をわたしにあらわされたのは、すべての生ける者にまさって、わたしに知恵があるためではなく、ただその解き明かしを、王にお知らせすることによって、あなたが心に思われたことを、お知りになるためです。PK 572.2
王よ、あなたは1つの大いなる像が、あなたの前に立っているのを見られました。その像は大きく、非常に光り輝いて、恐ろしい外観をもっていました。その像の頭は純金、胸と両腕とは銀、腹と、ももとは青銅、すねは鉄、足の一部は鉄、一部は粘土です。PK 572.3
あなたが見ておられたとき、1つの石が人手によらずに切り出されて、その像の鉄と粘土との足を撃ち、これを砕きました。こうして鉄と、粘土と、青銅と、銀と、金とはみな共に砕けて、夏の打ち場のもみがらのようになり、風に吹き払われて、あとかたもなくなりました。ところがその像を撃った石は、大きな山となって全地に満ちました」(ダニエル2:26~35)。PK 572.4
ダニエルは、「これがその夢です」と確信をもって宣言した。そしてその細かい点までを注意深く聞いていた王は、これが彼の心を悩ました夢そのものであることを知ったのである。こうして王の心は、気持ちよく解き明かしを受け人れる用意ができたのである。王の王が、バビロンの王に大いなる真理を伝えようとしておられたのである。神は、ご自分が世界の諸国を支配し、王を廃し、王を立てる力をもっておられることを示そうとされた。もしできることならば、彼の天に対する責任感を目覚めさせようとするのであった。終末に至るまでの将来のでき事が、彼の前に展開されるのであった。PK 572.5
ダニエルは続けて言った。「王よ、あなたは諸王の王であって、天の神はあなたに国と力と勢いと栄えとを賜い、また人の子ら、野の獣、空の鳥はどこにいるものでも、皆これをあなたの手に与えて、ことごとく治めさせられました。あなたはあの金の頭です。PK 572.6
あなたの後にあなたに劣る1つの国が起ります。また第三に青銅の国が起って、全世界を治めるようになります。PK 572.7
第四の国は鉄のように強いでしょう。鉄はよくすべての物をこわし砕くからです。鉄がこれらをことごとく打ち砕くように、その国はこわし砕くでしょう。PK 572.8
あなたはその足と足の指を見られましたが、その一部は陶器師の粘土、一部は鉄であったので、それは分裂した国をさします。しかしあなたが鉄と粘土との混じったのを見られたように、その国には鉄の強さがあるでしょう。その足の指の一部は鉄、一部は粘土であったように、その国は一部は強く、一部はもろいでしょう。あなたが鉄と粘土との混じったのを見られたように、それらは婚姻によって、互に混ざるでしょう。しかし鉄と粘土とは相混じらないように、かれとこれと相合することはありません。PK 572.9
それらの王たちの世に、天の神は1つの国を立てられます。これはいつまでも滅びることがなく、その主権は他の民にわたされずかえってこれらのもろもろの国を打ち破って滅ぼすでしょう。そしてこの国は立って永遠に至るのです。1つの石が人手によらずに山から切り出され、その石が鉄と、青銅と、粘土と、銀と、金とを打ち砕いたのを、あなたが見られたのはこの事です。大いなる神がこの後に起るべきことを、王に知らされたのです。その夢はまことであって、この解き明かしは確かです」(同2:37~45)。PK 572.10
王は、解き明かしの真実なことを悟って、謙遜と畏敬の念に満たされて、「ひれ伏して、……拝し」、「まことに、あなたがたの神は神々の神、王たちの主であって、秘密をあらわされるかただ」と言った(ダニエル2:46、47)。PK 572.11
ネブカデネザルは、賢者たちを滅ぼせという命令を取り消した。ダニエルが秘密をあらわされる神との つながりを持っていたために、彼らの生命が助けられたのである。そして、「王はダニエルに高い位を授け、多くの大いなる贈り物を与えて彼をバビロン全州の総督とし、またバビロンの知者たちを統括する者の長とした。王はまたダニエルの願いによって、シャデラクとメシャクとアベデネゴを任命して、バビロン州の事務をつかさどらせた。ただしダニエルは王の宮にとどまっていた」(同2:48、49)。PK 572.12
人類の歴史の記録の中では、世界の諸国民の発展や諸帝国の興亡は、人間の意志や勇気に左右されているかのようにみえる。いろいろな事件の形成は、その大部分が人間の能力や野心やあるいは気まぐれによってきまるかのようにみえる。しかし神のみ言葉である聖書の中には幕が開かれていて、われわれはそこに、人間の利害や権力や欲望の一切の勝ち負けの上に、また背後に、あるいはそれを通して、憐れみに満ちた神の摂理が、黙々と忍耐つよくご自身の目的を達成するために働いているのを見るのである。PK 573.1
使徒パウロは無比の美しさと愛情のこもった言葉で、アテネの哲人たちを前にして、創造および人類と諸国の分布における神の目的を語った。パウロは言った。「この世界と、その中にある万物とを造った神は」、「ひとりの人から、あらゆる民族を造り出して、地の全面に住まわせ、それぞれに時代を区分し、国土の境界を定めて下さったのである。こうして、人々が熱心に追い求めて捜しさえずれば、神を見いだせるようにして下さった」(使徒行伝17:24~27)。PK 573.2
神は、望む者はだれでも「契約のつなぎ」に入ることができることを明らかになさった(エゼキエル20:37・文語訳参照)。地には、自分自身および他の人々の祝福となり、創造主に栄えを帰すような人々が住むことが、神の創造の目的であった。望む者はすべて、この目的を自分のものとすることができる。彼らについては、「この民は、わが誉を述べさせるためにわたしが自分のために造ったものである」と言われている(イザヤ43:21)。PK 573.3
神は国家および個人のあらゆる真の繁栄の基盤である原則を、その律法の中に示された。モーセはイスラエルにこの律法を宣言したのである。これは「あなたがたの知恵、また知識」である。「この言葉はあなたがたにとって、むなしい言葉ではない」(申命記4:6、32:47)。こうしてイスラエルに保証された祝福は、広い天の下のすべての国家と個人とに、同じ条件の下において、同じように与えられることが保証された。国々の活動の舞台に上る幾百年も前に、全知の神は、各時代を眺めて世界国家の興亡を預言された。神は、ネブカデネザルに、バビロン王国は倒れて第二の王国が起こって、それにもまた試験期があることを宣言された。しかし真の神をあがめなかったために、その栄光は衰えて、第三の王国がそれにかわるのであったこの王国もまた消え去っていく。そして鉄のように強い第四の王国が、世界の国々を征服する。PK 573.4
地上のあらゆる王国の中で最も豊かなバビロンの支配者たちが、常に主を恐れていたならば、彼らは主に彼らを結合させる知恵と力が与えられて、その勢力を維持することができたことであろう。しかし彼らはただ、悩み苦しみに遭った時だけ、神を彼らの避難所とした。彼らは自分たちの知者たちの助けが得られなかった時に、ダニエルのような人々の助けを求めてきた。彼らは、ダニエルたちが生ける神をあがめており、神が彼らに栄誉をお与えになったことを知っていたのである。彼らはこのような人々に、摂理の神の神秘を解き明かすことを求めた。高慢なバビロンの支配者たちは、最高の知能の所有者ではあったけれども、罪によって神から遠く離反してしまったために、将来に関して、彼らに与えられた啓示と警告とを理解することができなかったのである。PK 573.5
神の言葉の研究者は、諸国の歴史の中に、神の預言が文字通り成就しているのを見ることができる。バビロンはその繁栄の時に、支配者たちが、神を離れて独自の力で立つと思い、彼らの王国の栄光を人間の業績に帰したために、ついに崩壊し去ったのである。メド・ペルシャの時代も、神の律法が足の下に踏みにじられたために、天の神の怒りをこうむった。大多数の人々の心に、神を恐れる気持ちがなくなっ た。罪悪と神への不敬と腐敗が地にみなぎった。その後続いて起こった王国は、なおさらはなはだしい堕落と腐敗に陥った。彼らの道徳的価値は、ますます低下した。PK 573.6
地上のすべての支配者の行使する権力は、天の神から与えられるものである。こうして与えられた権力の行使いかんに、その繁栄か否かがかかっているのである。すべての者に対して、天の警護者は、「あなたがわたしを知らなくても、わたしはあなたを強くする」と言われるのである(イザヤ45:5)。であるから、昔ネブカデネザルに語られた次の言葉は、すべての者にとって生きるための訓戒である。「義を行って罪を離れ、しえたげられる者をあわれんで、不義を離れなさい。そうすれば、あるいはあなたの繁栄が、長く続くかもしれません」(ダニエル4:27)。PK 574.1
これらの事を理解し、「正義は国を高くし」、「その位が正義によって堅く立」ち、また「恵みのおこないによって堅くなる」ことを理解し、「王を廃し、王を立て」る神の力のあらわれの中にこれらの原則が働いていることを認めることこそが、歴史の原理を理解することである(箴言14:34、16:12、20:28、ダニエル2:21)。PK 574.2
この事は、ただ神の言葉の中だけに、はっきりと示されている。個人の力と同様に、国家の力は好機とか、または物質的設備によって無敵と思われる強さが与えられるのでないことが示された。それは彼らの勝ち誇る偉大さにもよらない。それは彼らが神のみこころをどんなに忠実に成就するかによって量られるのである。PK 574.3